ヴォルテニュースレター NO.20

1年レッスン マインバウム私の木

 以前ニュースレターNO.9で御紹介したレッスンです。一年自分の木を決めて、できれば毎日見に行くレッスンです。ヴォルテの受講生木下さんが実際になさったそうで、そのお話をきいてとても嬉しかったです。このレッスンはイチオシなのですが、課題として強制されでもしなければ、なかなかしない類いのものだからです。そこで、今回はそのレポートを御紹介します。

 その前に一度どんなレッスンか振り返ってみましょう。私も18歳のときにユーゲンドセミナールで1年しました。私がもしも言語造型などの学校をつくるとしたらカリキュラムに加えますし、私が働いていたハンガリーのオイリュトミーアカデミーでも学生たちの課題でした。

 1 自分の木を選ぶ 
 2 できるだけ毎日見に行く
 3 スケッチはその場でしない
 4 その木がしたことをみなの前で発表する

1 まず木を選びます。木の種類さえ選べばいいでしょう?というわけではありません。どこに生えているどんな木なのか、自分の木をひとつ選びます。けっこう難しくって私はなかなか選べなくてゼミナールでは最後の方にあまった木から選ぶことになってしまいました。
 種類だけ選んでも、どこに生えているどの木かで、違います。これは1年実際になさると当たり前だと実感していただけるはず。

2毎日見に行く
 木は生きていますから、毎日行きましょう。行けば行くほど、木と結びつきます。農業をしたことがある方はわかっていただけると思いますが、そういうものです。生きているものは毎日目をかけると、全然違います!

3スケッチはその場でしない
 ちょっと不思議に思われるかもしれませんが、見る力、観察力、つきます。というのも、家に帰ってスケッチしはじめると、あれ、どんなだったっけ?葉っぱの形?と、具体的に自分がどこを見ていなかったのか、気づきます。これが大事です。そうすると、次はそこをよく見るようになります。次はよく見る。それには「ああ、ここのところ見てなかったな」と気づく必要があるんですよね。

 こういう力が、人間にはあるということが写真にとってしまったり、ビデオにとってしまうと、気がつかないし、気がつかないとその力はどんどん萎えてなくなってしまいます。というわけで、スケッチは家に帰ってからすること。

4発表には、その人の木との結びつきなどが表れて、おもしろいです。木の話しなんて、きいてられないよなんて思いますか?それがおもしろいんです。1年間、その人が毎日したことをそれも木という大きな存在と関わったことを発表してくれるんです。それはもう、おもしろいです。
 木下さんには実際に7月のおさらい会でしていただく予定です。

 このレッスンはとにかく実際に1年しないとわかりません。私は松をしたのですが、1年見たあとでは、松の横を素通りできなくなりました。どこで松を見ても、ついつい今どんなことしてるのかな?と見てしまいます。このレッスンをする前と後とでは大げさですが、人生が全然違います。それだけではなく同じく常緑樹の、落葉松、モミの木、なども松のいとこみたいな感覚で、覗いています。もしもこうやって一つ一つの木を見ていけば、ちょっと歩くだけでもずいぶん多くのことを人は見ることができるんだなあと思います。


マインバウムのレッスン 木下久子

 ニュースレターNo.9に基礎体力トレーニングの1つであるマインバウムのレッスンのことが書いてありました。どんなレッスンなのかと読んでみますと、まず自分の木を1本探し、毎日、1年間観察に行くこと、その場でスケッチをせず、家に帰ってから思い出からスケッチすることと書いてありました。さらに読み進めてみますと木から思わぬ贈り物がありますと。プレゼントって木の実のこと?それとも他に、ただならぬ贈り物があるのでしょうか?この贈り物が何なのかとても気になりました。そしてマインバウムと声に出してみましたら、何か大きなボールがはずみながら私の方にやってくるようでした。

 ある日いつもの通り道でカメラを持った人が木を映していたのです。私は次の日、同じカメラポイントに立って木を眺めてみました。花の色は白、形はモクレンの花に似ていました。よしっ!この白モクレンに決めた。早速木のところに行き、幹に手を当て「これから1年間会いに来ます。よろしくね。」と木に挨拶をしました。こうして私の1年半の観察が始まったのです。

 この木は、市の中心を走る大通りの歩道にありました。トウカエデの街路樹が行儀よく並んでいます。この歩道側に白モクレンがたっています。木の高さは7mほどの大きな木です。そしてもう1本のモクレンの木や、サルスベリなどが何本もはえているにぎやかな歩道です。

【春】
 桜の花が咲く前の3月は、他に花が見当たりません。この白モクレンの花が満開の頃は他の木はまだまだつぼみを付けています。ですから、遠くからでも白モクレンだけは真っ白に、輝いているのですぐに見つけられます。高い木に白い布をかけたように下から木のてっぺんまですべての枝を覆うように、真っ白です。

 近づくと、1つ1つの花は手のひらに乗るくらいの大きさでした。花の中をのぞいてみますと、その瞬間私は息を止めます。それほど別世界なのでした。白い花かと思っていた花びらは脈のような筋があり、クリームに近い白色でした。真ん中のめしべの色もクリーム色の緑色でそれはそれは生まれたての色のようでした。

 そのめしべの下のふくらみには、数100本はあろうかと思われる繊毛が四方八方にびっしりと広がっています。長さ3cm程の赤紫の濃淡色で、木綿糸の太さでした。春というのは強い風が吹きます。この春の嵐によって花びらは折れ、そこから茶色の傷ができ、雨に打たれもっと茶色になり、わずか数日で地面に落ちます。


【4月】
 花びらがなくなると、か弱そうなめしべに光があたり、少しずつ緑色になってきます。形もひょうたんの形から少しずつ小枝の太さに細長く変わってきます。花びらがあった根本の両側には花のつぼみよりは小さいつぼみが2つ、両側についています。それぞれの2つは割れ、中から緑色が見えます。つぼみのさやを押し広げるように出てきたのは葉っぱです。

 この葉っぱを大事に包んでいたであろう薄い油紙のような膜がすぐに風に飛んで行きました。3cm程のやわらかい葉っぱは、紙をクチャクチャとしたように縮れています。しかし葉脈だけはくっきりと、まるで魚のあばら骨か人間の肋骨のように、そのわずか3cmの中にはっきりと見えのです。

 この時期は数時間おきに木の変化が見てとれます。このあばら骨と葉っぱのその内側に、さらに小さな葉を抱きかかえ、その葉はさらに小さな葉を抱きかかえてでてきます。これらの葉が光に当たり、すーっを弧を描きながら茎を伸ばすのです。葉っぱも広がりますと、あのあばら骨もすっかり葉脈をと同化しているのです。このようなやわらかい葉が枝先という枝先にびっしりつくのです。白い花の次は黄緑の花が咲いたといっても言い過ぎではありませんでした。


【5月】
 茎の先端についたわずかなふくらみが葉にはならず、だんだんと膨らんできていました。あのめしべは表皮がこい緑色になり、小指ほどに太く細長くなってきました。表面は青いパイナップルのように硬く、小さなとげのようなものまでついています。そのとげがついているところはゴツゴツと小さなこぶのように太くなっています。この変な木の実が、木からの最初の贈り物なんだろうかと思うと、これからどんな色へ変化していくのか楽しみになってきていました。


【6月】
 夏日のような暑い日の次の日でした。あの木の実が青いままで地面に落ちていたのです。たくさんたくさん青い実が地面に転がっていました。先に落ちた木の実はセメントのように灰色になっていて、ひろって2つにポキッと折ってみると、中にはゴマのように小さな種がいくつも入っていました。この日はなんだかとってもがっかりして、小雨の中をゆっくり帰って行きました。


【7月】
 葉がついていたあの細かった茎が少し茶色に色づき、半分は茎から枝に変わろうとしていました。その半分の茎の先には、5月に見たふくらみに銀色の産毛が密について大きくなっていました。これはきっと花になる元かもしれない。やっと花の元を見つけました。このふくらみに銀色小人と名づけて花が咲くのを見守ることにしました。


【8月】
 細い枝には大きくなった葉が100枚はついているでしょうか。その細い枝を支えている枝が何10本もあり、またその枝を支えている幹には、どれほどの重さがかかっているのかなと…。またそれを支えている地面と根っこは…。根の先端は枝先の茎より細いのか…。



【秋】
 街路樹のトウカエデが赤く色づいた頃、白モクレンも紅葉していました。遠目に見ていると、オーケストラの演奏が聞こえてきそうです。落ち葉の時期を過ぎて初めて葉のない枝を見ることができました。よくみると不自然に曲がった枝もあります。でもその不自然な枝なりに方向をとり、伸びる枝が力強く美しく見えます。


【冬】
 枝先ごとについていた銀色小人はオリーブ色のさやをパラリと落としますが、中には同じオリーブ色のさやがついていました。この秋から冬にかけて何回も脱皮しているようです。そして形はますますふくらみ、大きな鳥のくちばしのように先が曲がってきています。


【春】
 3月の上旬、銀色小人に裂け目ができ、中から薄い薄いピンク色の花びらが見えました。また満開の花の時期がやってきます。

 レッスンから2年たった今でもはっきりとあの伸びる茎や枝や葉、木全体のそれらがよみがえります。木の贈り物を探しての1年でしたが、その贈り物はこれですと、はっきり言えませんが贈り物は確かにもらうことができました。今思えば、木に会いに行っていた1年半は自分の体の中の何かが、とてもよいところに行っていたなと思えるのです。もしどなたかがマインバウムのレッスンをなさったら一緒にお話がしたいです。

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